1.タイトル: 最新の無線技術とインターネット 2.記録者: 小山 哲志 小山 佳寛 3.発表者: 関矢 壮範 (J-Phone Co.,Ltd) 森本 英明 (NEC) 4.時間: 2003年7月25日 (金) 16:00-17:15 発表: 16:00-17:00 質疑応答: 17:00-17:15 5.発表の焦点、論点、議題 JANOGで初めて移動通信と無線LANに関するセッションが行われた。最初と いうこともあって、現在存在する様々な方式・規格・それぞれの特長と、現 在開発中の方式についての解説が行われた。 6.発表の流れ 最初に関矢さんから無線技術全般の最新動向が、続いて森本さんより3G(第 三世代移動通信)についての話が発表された。 ◎ 無線関連の業界および技術動向 (関矢) o JANOGでは無線関係のネタをこれまで取り上げていなかった。ホットなト ピックでもあるし、聞きたいという人がいるというのでセッションにして みた。 o 無線LANについて - 現状の無線LANは、屋外の通信路として使うには弱点が数多くある。 - 高速移動ができない。 - いつでも使えるというほどアクセスポイントは多くない。 - 端末側が電気を食いすぎ。 - つまり現状では ・歩きながら ・車の助手席に乗りながら ・バスに乗りながら など、当然と思える状況で使用できない。(あまり便利とはいえない) - これらの弱点を踏まえて、現在の開発動向は高速化、長距離化に向かって いる。 - Ad Hocネットワークの実現へ o IEEE標準規格のおさらい - 802.Xでネットワークに関する仕様を定めている。 - 無線LANの規格は802.11。 - 802.11 - よく言葉にされる802.11だが、11だけでたくさんある。 - 11の次のアルファベットはタスクグループを表す。 - 11a/b/gが現在よく使われている。 11a: 5GHz帯、最大54Mbps 11b: 2.4GHz帯、最大11Mbps 11g: 2.4GHz帯、最大54Mbps - これらの技術のトレンドは更なる高速化。 - 802.11a/b/gの高速化 - 同時に2chを使用し、倍の転送速度にする。 - フレームバースティングの技術を使う - DIFS + Back Offを省略することにより30%位高速化(?)。 - 802.11n - 100Mbpsを超える転送速度。 - アレーアンテナを送受信双方向に複数並べる(らしい?)。   - 出来たばかりのTF - 802.15(Bluetooth) - 日本ではいまいちだが、欧州では一般的になりつつある。 - 携帯電話には必須の機能。 - PDAやノートパソコンのインターネットの接続を、Bluetoothで受けた 携帯が中継する。 - 802.16 - 電話線のLOM(Last-one-Mile)に変わる技術として一時は騒がれた。 - 業界団体WiMAX Forumが存在。 - 最近は騒がれなくなった。 - 802.20 (MBWA: Mobile Broadband Wireless Access) - 言う人に言わせると「これが4G」。そのくらい期待している人がいる。 - 転送速度は非対称、下りで数Mbps〜。 - 端末の高速移動に対応。 - CORE NetworkはすべてIP (IP over Radio)。 - すでに製品らしきものができあがっているし、国内メーカの参入もある ようだ。 - 電源問題が解決されれば、これが携帯電話の本命になる? o Ad Hocネットワークの現状 - Ad Hocネットワークとは、各無線端末が中継しあうことで広域なネット ワーク網を作ろうという試み。 - 問題点としては、 - 他人のパケットが通過するのを許せるか問題。 - バッテリー消費があるので、携帯電話ではつらいかも。 - アメリカでは現在街の中でトライアルが行われている。 o 3Gとはなにか? - 第3世代移動通信(3rd Generation Mobile Telecommunications)のこと。 - ITUにより5つの勧告がある。 - 大きく分けて2つの陣営(日本では以下のようになっている) - W-CDMA: Docomo, J-Phone - CDMA2000: KDDI - 推進団体も2つ - 3GPP: W-CDMA(主にヨーロッパ) - 3GPP2: CDMA2000(主にアメリカ) o 各国のキャリアの実体 - アメリカ、韓国はCDMA2000 - EUはW-CDMA - 日本は両方 o アメリカの携帯キャリア - スライドは評価の高い順番です。 - やっとカラー画面が普及したが、まだまだ高価格。 - PDAとの融合に走りつつあるように見受けられる。 o 韓国の携帯キャリア - 基本的にCDMA2000 - できることはなんでもやる路線。 o 日本の携帯キャリア - 端末がどんどん高機能化している。 - Java/Flash等アプリケーションが発達している。 o 全体的な動き - 標準化が進む - ベンチャーが標準にのっとってどんどん製品を作るので、市場が元気に なってきた。 o 携帯と無線LANの統合? - それぞれにメリット/デメリットがある。 - だったらドッチーモみたいに2つをくっつけちゃえばいいじゃん。 - US では実際にそう考えているふしもあるらしい。 o 端末上のアプリケーション - Web, Mailはあたりまえ - Push-to-talk(携帯をトランシーバーのように使える)は日本で見ていない - 3Gになることによって医療機器への影響が少なくなるので、医療関係に 入るかも。 o 今後の携帯動向についての私見 - 日本は携帯先進国じゃない - アプリケーションはアメリカがかなり進んでいる。 - 端末は韓国がどんどん良いものを出してきている。 - 遅くても街中どこでもつかえる現在の携帯の有利点はなくならない。 ◎3G関連の動向(森本) o 発表は大きく分けて4項目。 -移動通信システムの動向としてその環境と展望、 -3Gへの変遷と3Gの仕様について、 -3G以降(4G)に向けての技術紹介、 -今後移動体通信にどういうことが求められているのか、 o 移動通信システムの動向としてその環境と展望 - インターネット・ コンピュータ・通信の歴史 - インターネットは軍需利用からで、ARPAネット→学術ネットとすすみ 現在に至っている。 - コンピュータはメインフレームの時代から 発展して人工頭脳をもったものが次世代だと思われていたが… 到来したのは人工頭脳ではなくPCの時代だった。 - PC とインターネットの融合 通信に求められる帯域も大きくなってきた。 - 移動体通信のトレンド - ひとつのシステムでいろいろなサービス提供をするのが難しくなって きたと思われる。 →サービスの多様化 - 日本では i-Mode など、メール/ウェブ端末として普及 - 欧州では VOICE の需要がまだ多くマルチメディア系のサービスは これからである。 - 米国では携帯電話だけでなく PDA も利用されている。 - 全世界的に見ると市場動向はそれぞれの特色がある。 - 一人当たりの月額利用料 - 日本では平均7000円から8000円 - 北米・欧州は単純な比較はできないがその半分くらい - 通信速度の需要 - 有線におけるコンシューマへの提供 - 速度は10〜100Mbpsというところまできている - 大容量通信が必要となる公的ニーズ、医療関係などは別として一般 コンシューマへの 100Mbps のサービス普及はこれからである。 - 移動体通信 - 2000 年が 1M、2005 年が 10M、2010 年には 100M を実現 - 3Gの拡張ともいえる3.5世代移動体通信は 30Mbps にまで達すると 言われている。 - 3Gの普及 - 日本では PDC から第3世代に移行しようとしているが現時点では 伸び悩んでいる - 欧州でも現時点では第3世代があまり普及していない - 第4世代の研究開発も始まってはいる - まだ第2世代時代でこれから第3世代時代というときに4G というのは、表現的によくないということで systems beyond IMT-2000 という名称になっている。移動通信は標準化から商用 まで過去の世代では十年くらいかかっているのでそういう観点 から本システムの検討が進められている。 o 第3世代の仕様 - IMT-2000 - 第3世代ってなんでしょう? - 第3世代の移動体通信は IMT-2000 という名前で規格が策定されて いる。 - IMT-2000 の「2000」の意味は、2000MHz で 2000Kbit/s のサービス を 2000 年までに開始しましょうという発案時のスペックから来て いる - これまでは FDMA や TDMA であったが、CDMA という技術が用いられ ている - CDMA: Code Division Multiple Access の略    -3Gの仕様は当初から発展してきており厳密に定義するのは実のところ 難しい。 - 第3世代への変遷、そして第4世代へ - 世代の流れとしては、第1世代がアナログ、第2世代がデジタル、第 3世代がマルチメディア - 第4世代は恐らくブロードバンドとリアルタイム的な環境が求められ てくる - 第2世代から第3世代への移り変わり - 第2世代のシステム - 欧州はGSM - 日本はPDC - 米国はIS-95 - 第3世代は仕様を統一してモバイルマルチメディアサービスの提供、 グローバルローミングの実現を目指したが、方式的には結局 W-CDMA と CDMA2000 にわかれた - 第3世代の基本機能とその需要 - グローバルローミング - 需要はあるが、それより既存のものからのサービス継承性が重要と 考えられる - 使用周波数 - 第3世代で世界的にようやく同じ周波数がアサインされた - ただしアメリカだけが結果的に独自路線を進んでしまった - W-CDMA システム概要 - RAN (Radio Access Network) 部分は W-CDMAの技術 - コアネットワーク部分は GSM ベース - 技術的には RAN 部分の新規性が高い - 端末はカード認証によるシステムを導入 - W-CDMA のメリット - 高品質化 - マルチメディア化 - 周波数利用効率のアップが大きなメリット - Rake 受信 - 従来システム - 基地局から端末までの電波のうち、遮蔽物などに反射されたものは ノイズとなっていた - Rake受信 では - Rakeはクマデの意味であり、遅れて到達した電波も遅延時間を合わ せて合成して S/N 比をあげている - W-CDMA の高度化 - IMT-2000 の Release99 は2001年の3月に仕様が凍結した - 今は Release4 から Release6 へと進んでいる - R5 では IMS や HSDPA が導入される - その中でもHSDPAが一番早くできるだろう - R6では MBMS、W-LAN とのインターワークといったものが盛り込まれ る予定 - W-CDMAの高度化の要素 - 大容量化、HSDPA、ネットワークの IP 化がメイン - IPv6 がくる - ヘッダからしてとてもじゃないけど無線では大きすぎる… - 圧縮することも考えられている - 大容量化について - AAA (Adaptive Array Antenna) という技術が考えられている - 指向性を変えるようなアンテナ技術を利用することでメリット が生まれる - HSDPA について - 電波状態によって通信容量を変えるシステム - 適応変調、誤り訂正の技術を使い伝送路品質がいいときは通信容 量を上げるというシステム - 単純に考えると、基地局からの距離によって通信容量が変わる - 第3世代から第4世代への進化について - All-IP 化の実現に向けて - 現実的にはまずコアから対応すると考えられる - コアネットワーク - ルーターを中心としたIPネットワークとなる - 理想は全てのリソースがコアに繋がっている状態でシームレスな 環境 - 携帯端末 - まずバッテリ容量の限界がある - 仕様の中で要求されている機能の一部を落としてもユーザーの満 足を上げるトレードオフが大事 - 日本では、テレビ配信というサービスの要望が多いらしい - 地上波デジタル放送が端末で受信できるようになる!? - 難しいがコンシューマの需要を捉えるのが大事 - 機能として何を選択するかという判断が要求される o 第4世代システムの紹介 - 2003年6月、ジュネーブの ITU-R で承認されたものである - 4Gとは IMT-2000 の高度化(3.5G)の後にくる、新しいモバイル アクセスという定義だったがsystems beyond IMT-2000という機能強 化を含めた全体システムということで承認されている - 移動通信と W-LAN (Wireless LAN) の関係 - 移動通信は WirelessLAN と共存するのが一般的な考え方 - ただし移動通信事業者は当面のところ単独で使用したいという考えも ある - IP ネットワークとの関係をどうするか - 有線では… - ブロードバンド化がすすみ - 定額料金で常時接続 - peer-to-peer 接続の環境 - モバイル IP ネットワークでは… - 通信速度の向上と W-LAN との融合が考えられる - W-LAN は高速データの送信手段 - 移動通信とは補完関係を持つことになるだろう - 3GPP にて検討中のシナリオの中で一番大きな課題は課金とパケット サービスとの連携部分 - 課金の連携や認証のシステムをどうしていくのか - W-LAN の 5GHz 割当状況 - 5.15 〜5.35 GHz 帯:屋内屋外両方使える - 5.47 〜5.725 GHz 帯:同様に屋内屋外両方使えるが欧米では事情 が違う - W-LANの比較 - 11b - 一番の特徴は ISM バンドを利用していること - この周波数帯は、誰が何の目的で利用しているのかわからないの が問題となる場合がある →混信する!? - 11a - 5.2GHz 帯を利用 - 変調方式に OFDM 方式を使うことで干渉対応ができ、伝送速度を 上げている - 11g - 11a に対抗して作った - 11b との下位互換を保つ場合 11a の方が実効的には伝送速度は ちょっと上 - UWBについて - 軍事技術からおちてきた技術 - スペクトル拡散幅をもっと広げて使うことで伝送速度を稼ぐ技術 o 今後の移動体通信への要求、課題などについて - 情報伝達の構成はアクセス系といわれている - 固定⇔移動、リアルタイム⇔そうでないもの、色々ある - これらを統一メディアで全部実現するのは現時点では不可能 - 通信メディアを必要に応じて使い分けるのが現実的な姿 - セキュリティが重要になってくる - 移動通信、PHS、W-LAN の各システムの関係 - W-LANと移動通信と競合するのか - やっぱり共存 - 移動通信の料金制は? - 従量課金と定額制の2つがある - PHSの定額制はすでにでているが… - 移動通信におけるパケットをどう定額制にするのかが課題 - 移動通信への要求、着眼点 - 常時接続という要求が挙げられている - そもそも常時接続って? - ベアラーが繋がっているのがそうなのか、サービスが繋がっている のがそうなのか - 移動通信で使いっぱなし(ベアラー常時使用)というのは、無線の リソースを占有することになるのでこのままでは難しい - 要求があった上での今後の課題 - グローバルサービス化 - 周波数のグローバル標準化が大きな課題 - ALL IP 化 - 無線部分が課題 - 多機能化 - どこまでやるのかが課題 - モバイル環境におけるISPの着眼点、課題 - セキュリティの考え方をどうするのか - コンテンツへの認証、著作権対策も一番のポイント - 今後出てくるかもしれないモバイル系のサービス通信業者とつなげる とき課題が生まれるかもしれない - 「ユビキタス」について - いつでもどこでもだれとでもというだけでなく、移動も固定も情報家 電なども含めて考えていくのがユビキタスの概念 ◎質疑応答 Q: (NTT-BB 久松) 携帯電話をIP化する一番のメリットは何か? A: (関矢) インフラコストの削減。 A: (森本) しかし、今の時点ですぐにAll-IP化というのは投資効果を考慮した       考えが必要と思う。 Q: (MEX 石田) そこで考えられてるIPはv6になるのか? A: (関矢) そう。 Q: (MEX 石田) 例えばPHSは、内線網としてみるとすごく良いシステムだが、 現在は端末がなくなりつつあって困っている。そのように忘れ去られていた ソリューションが、3G,4Gにより復活することはないだろうか? A: (関矢) まったく良い意見。SIPは簡単に扱えるので、それをベースにして PHSのようなシステムを構築できるかもしれない。 A: (森本) 「簡易携帯電話」という位置付けが良くなかったのでは? 個人的に はよいサービスだと思っているのだが。 Q: 現状でPHSにすぐに置き換え可能なものはないのか? A: (関矢) すぐには思いつかない。 Q: (国武) 携帯のIP化は、モバイルIPを使うことが想定されているのだと思う が、相手のIPが見えてしまうとトレーサビリティが明らかになってしまうの は問題がないのか? A: (関矢) 確かに分かってしまう。問題だとは思うが、細かい議論はまだされ ていないよう思う。 Q: (NTTCom 浜田) ALL IP 化が進んだときのアドレスのアグリゲーションは? A: (関矢) 考えたくないって感じだと思う。 A: (国武) モバイルIPならば、ホームIPで直接通信することはないので、 経路が爆発することはないはずだ。 Q: (JT 松嶋) 無線だと基地局やアクセスポイントがあって、通信はそのポイ ントに集約されるが、AdHoc なのってどうなっているの? A: (関矢) 端末側のチップに回路をもって2000経路くらいあらかじめ持つよう な実装はみたことがあります。ある程度の単位をおいてゲートウェイを設置 していくことになるでしょうね。 7.まとめ 携帯電話と無線LANという似て非なる技術について、業界の動向も含めて広 く全体を見渡した解説が行われた。 8.所感 どちらの発表も、全体を俯瞰するのには非常に良い内容だったとは思うが、 正直詰め込みすぎの感が否めない。一回目ということで全部語り尽くそうとは せずに、イントロだけに押さえておいた方が良かったのかも。(小山哲) 聞き慣れない用語が飛び交う中ログ取りには苦労したが、移動通信の通信 速度向上や IP 化の波はもうきていること、W-LAN との融合がすでに研究され ていること、移動通信の能力向上に次々と新しいアイディアが生まれている こと、どれも驚きを隠せなかった。知っているようで全然知らない世界を垣間 見た気がする。無線技術も実に奥が深い!(小山佳)