1.タイトル OCNのオペレーションを例にしたHRO (High Reliability Organization)の紹介 2. 発表者 都立科学技術大学 中西 晶様 JPCERT/CC、OCN 水越 一郎様 3. ロガー 原 かおり(CTC) 4. 時間 2004年 1月29日 16:45〜17:30 発表 16:45〜17:15 質疑応答 17:15〜17:30 5. 発表の焦点、論点、議題 ISPの運用しているシステムは複雑化、巨大化しつつある。しかし その中で信頼性への要求も高まっているのが現在の状況。 このような相反する環境の中でオペレーションを実施するにはど ういう組織がよいかという課題に対し ・HROという使えるコンセプトを紹介する⇒中西様 ・OCNの運用とHROのかかわりを紹介する ⇒水越様 6. 発表の流れ 【HROとは】 ・HRO = 高信頼性組織 = 複雑な技術的社会的状況においてミスが 許されないという過酷な条件のもとで、高い安全パフォーマンス を維持している組織のこと ・HROの5プロセス ・成功よりむしろ失敗への関心をもつ ・物事の解釈を単純化することへのためらい ・オペレーションに対する感受性が高い <不測の事態発生後> ・復元回復力へのコミットメント ・専門知識への服従 ・マインドフルとマインドレス ・マインドフル 状況に常に気を配る なにか失敗があったらそれを発見して修正していく パラノイア的に失敗をみつけて学ぶ傾向 ・マインドレス 状況の変化に気付かない 【OCNのNOC(Network Operation Center)はHRO?】 ・HROを聞く前から記録、レビュー、設計へのフィードバックが実 施されていた ・以下の2点からOCNはHROにある程度近い組織である ・故障に対する考え方 故障はあるのが前提。人為故障は起きたほうがいいくらい ・組織文化 ミスした人を責めない、正直に申告する 【むすび】 ・HROにも限界がある ひとつのチーム、ひとつの事業所がHROの単位として考えられ 分析されているが、複雑なシステムにおいて不測の事態が起 こるときはひとつの事業所単位では解決できないことが多い ⇒人間のネットワーク、外部組織とのつながりをどれだけ緊密に つなげておくかということがもうひとつのポイント JANOGはまさにそんなネットワーク? 【質疑応答】 ・NTT クロヤマ(?)さん Q:HRO維持にはマインドフルがキーワードだと思う。NOCにおいて モチベーションを高め、マインドフルな状態に導く方法を教え て頂きたい A:NOCのオペレーションにおいて、事故、ミスはあるものという前 提、また、責めないと言うカルチャーが重要。個人の意識がそこ から離れないように注意すること。 そのためには、上司、上位にいる人間が外部からの圧力に対する 盾として働くことが重要。 営業や顧客がミスを起こした個人に対し感情的に責めることが起 こりえる。故意にミスをしたわけではないので、ガードしてやる ような組織、仕組み、が大切なのではないか。 そのような外部圧力はマインドフルな状態を壊れ易くするきっか けになる。 Q:外に出て話す、知名度が上がるような行為により個人のモチベ ーションが高まると思うが、話すことをどう動機付けているのか 教えて欲しい。 無理にしゃべらせるものではないと考えている。しゃべる内容が 大切である。 自分で考えたことなら主張したくなると思うので、考える癖をつ けることが大切。考える癖をつけてもらうことと、プロモートし てやるというのが必要ではと考えている。考える癖のつけかたは 思いつかない。 ただ、新しいアイデア、考え方、既存のやり方に対する疑問を頭 ごなしに否定してはいけないと思う。 ・橘さん Q:HROを導入するにあたって、上位者を説得する方法のアドバイス を頂きたい。例えば現場のボスに必然性を認めさせるアプローチ。 現場同士は組織間の交流が必要という意識をもつが、ボスはそう ではない時など。 A:OCN NOCにおいては、HROの概念は自然に実現されていたものな ので、導入手順のノウハウには答えるのは難しい。 重要なのは現場に必要な権限をどれだけ与えられるかということ ではないか。 メール、電話でリモートからコントロールしようとするといやが る方がいるが、装置を交換したりというのは現在のネットワーク を知らないとできないということを主張する。あるいはそれだけ の実績とスタンスを持つことが必要。 組織の知識交流については2つコメントがある。 ・人の入れ替えの持つ意味を認識すること 既存のやり方に対する素直な疑問がでてくる。特に新人さん にその傾向がある。新しい人が入ってくるのは、かきまぜる 意味で貴重だととらえることが必要。 同じ所に同じ人がずっと居ると、部分最適化が起こり、HROで 避けるべき単純化が進んでしまう。 ・組織として人的交流の重要性を認識 上司に教えられたことして、2割ルールというのがある。毎年 自分の部下の2割を動かしなさいというルール。5年で計画的 に動かすつもりでないと人的交流は発生しない。 このルールは単純化されすぎかもしれないが、グループ、ユ ニット全体で認識しておくことが必要である。 ・日本テレコム 松本さん Q:OCNでは今までやってきたことが偶然HROにあてはまるというこ とだったが、HROの概念を知った後で新しく取り組んでみたこと があれば苦労を含めて教えて頂きたい。 また、時間をかける、手間をかけることにかかる人的、社内的 リソースについて考えがあったら教えて頂きたい。 A:レビューの対象として、従来の対象だけでなくサーバー、ルー タにかぎらずおもしろそうな案件を対象にした点が新しい取り組 みだと思う。失敗から学び、解釈の単純化を防ぐために効果的だと考え たため。 HRO実現にあたって、金に糸目をつけないと難しい。アンケート にもコストに関して追いまくられているかどうかという項目が あり、HRO実現には金銭的コストが大きく関係する。 大きな組織の中の全ての組織において高信頼性が必要かとい うとそうではない。メリハリが必要で、全てHROである必要はな いというのがヒントでは。 ・IIJ ?さん Q:ある組織の中でも個人によってマインドフル、マインドレスが あると思う。組織から個人へのアプローチとしてマインドフルに 持っていくお話だったが、個人差について思うところがあれば教 えて頂きたい。 A:学会でも個人差については質問された。HROが対象にしているの は組織という集合体としてのマインドフル、マインドレスである と答えた。 実務上ではそれではいけない。マインドレスな人も居ることがあ る。マインドフルにする方法として、トレーニングというのがひ とつの解と考える。 海兵隊、空母の例では、ブーツキャンプなど、なぜこれをしなけれ ばならないか、組織の価値観を徹底的に叩き込む というトレー ニングがある。 時間も金もいるがそのようなトレーニングをするというのがHRO に関する議論の中で言われていることである。 具体的な手法としては、責任をある程度わたして自分で考えて行 動させる。見ていることは必要だが、やらせてみる必要があると 思う。専門知識を与え、権限を与え、自立されることによりマイ ンドフルな状態に導くというのが答えになるのでは。 ネットワークに関する大規模なプロジェクトのリーダーを2〜3人 の若手(入社4〜5年)チームに任せた。責任者として動機付けを 行った結果、責任を持っていろいろな手法を考えたり、専門知識 が身についたりするので、権限責任のあるジョブを与えるのは一 つの手だと思う。 ・富士通システム エグチさん Q:空母の例があったが、軍隊と言うのはそこに働く人が決められ た責任のなかで狭い仕事をしているのではないか。例えば整備員 は決められた仕事しかしない。マインドも何もないのでは?個々 の組織で問題が出たときにどうまとめるかといった上層部の連携 が軍隊組織の典型的なところではないかと思う。 これに対し会社組織では個人の仕事の境界を定めるのは難しい。 複数人が協働して作業を行い、まとめる人が少ない状態。これは 軍隊とはことなる組織の形だと思う。 会社のマインドフルのレベルを高めるにはどうすればいいか知り たい。軍隊とは異なる一般組織だとこういう形という研究事例が あれば教えて頂きたい。 A:HROという概念が一般組織に導入されたのはつい最近。参考文献 の中に、一般組織でも使えるという説明があるが、まだ事例はほとんど存 在しない。 軍隊ではきっちりと仕事が決まっているということだが、仕事が 決まっているようにみえて、実は現場(前線)でいろいろ動いている。そ のやり方は参考にしたいと考えている。また、軍隊の新しい形として、 NHK「変革の世紀」の中で現場で意思決定できる新しい構造 というのが紹介されていた。一概には言えないのでは。 日本企業では仕事の境界がはっきりしないとは考えている。マイ ンドを高めるには、仮説であるが、ひとつ上位の目的を与えては どうか。システムを安定的に動かす、顧客価値といった観点まで 捉えるようなある目的をシェアすることができたら、マインドは 高まるのではないか。 まだ研究されていないので、興味あれば一般組織におけるHROの あり方を考えてみるのもおもしろいのではないかと考えている。 現段階では軍隊、原発、ER等のタスクがはっきりとした組織 の中で培われたノウハウを一般組織に適用しようという流れがよ うやく出てきだしたところ。 NOCは一般企業とHROの中間くらいなのではないか。ビジネス上の 制約をどう織り込むかがこれからのテーマだと思う。コスト、人 的リソースの折合いをどうつけるかがポイント。 HROは冗長性の高い組織と言われている。冗長というのは実は 一般企業の得意とするところでは ないか。それをうまく動かせるかは別問題であるが・・・ ・橘さん Q:発表者2名が現場/教育側の組み合わせセッションであるので質 問。教育している立場で、育て上げた人間が社会にでていく時の マインドフルな人間とマインドレスな人間の割合、それに対し、 受け入れる現場でのマインドフル、マインドレスの割合について ご意見頂きたい。 A:中西さん:担当し始めたのは学級崩壊がはじまった世代であるが 割合としてはマインドフル2割、中間6割、マインドレス2割とい う感覚。マインドフルな2割がNTT、6割が別のところ、後の2割が 学校に残っているというところではと考えている。(笑) 文系の授業なので考える力、文章力を見ているが、考えている− 一応書けている−何も考えてないという割合は2、6、2くらいに なる。 水越さん:率はあまり考えたことがない。最近の人が優秀なのかも しれないが、新しい人はほとんどマインドフルだと思っている。 素朴にこれは何かと質問してくるだけで十分マインドフル。 逆に、人事異動で入社後長い人がまわってくると、なぜかマイン ドレスな人が多くなってくる印象。 割合は2、6、2だと思うが、若者はマインドフルだと思う。知ら ないこと自体がマインドフルの特権だと思う。 7. 感想 二人の発表者の絶妙なコンビネーションによる流れの良さと質問 に対する回答の的確さが特に印象的だった。 配布されたアンケートの結果が大変興味深いので、是非WEBで公開 してJANOGのWebからリンクしてもらいたいと思った。 自分の組織は企画部署で、HROのようなプレッシャーも無ければミ スの定義にも迷うくらいだが、失敗の共有やミスを責めない等、参 考になることは多く、楽しい発表だった。