業務スタイルの違いを越えるネットワーク作業自動化プラットフォームの浸透

概要

KDDIでは、IPネットワークの維持・メンテナンス作業における効率化と信頼性向上を目的に、自動化プラットフォームを構築し、JANOG 55ではその概要と導入効果について発表しました(※)。CLI中心の手作業に依存していた現場に対して、実行結果を確認しながら進められる共通基盤としてJupyterを活用することで処理の信頼性を担保しつつ、属人性も排除し、自動化の恩恵を届けることができました。

本発表では、その後の取り組みとして進めた社内の複数部署に向けた自動化プラットフォームの横展開について「プロセス面」「プロダクト面」の観点で紹介します。

前回は、ネットワークエンジニアとソフトウェアエンジニアが協力して構成したクロスファンクショナルな開発チームを結成し、導入を成功させました。しかし、今後の利用拡大を見据えると、毎回同じようにチームを結成する方法では、関係する人や時間の調整にコストがかかり、スピード感をもった拡大が困難であると判断し、今回は、ネットワークエンジニアには要求部門としてのみ参加してもらう形で展開を進めることに挑戦しました。

そこで、前回の発表で紹介した成功事例をそのまま他部署に適用しようと試みましたが、業務スタイル、作業頻度、課題の違いを十分に考慮できず、現場にフィットしない結果となり作業者の負担軽減や属人化の排除といった期待した効果を得られませんでした。前回は”0→1”の導入であり、既に確立された業務プロセスに対しプロダクトを当てはめる構成でしたが、今回は既にあるプロダクトに、異なる業務プロセスを合わせる“1→n”の展開。ここの難しさに十分向き合えていなかったことが原因でした。

本発表では、失敗の背景や原因について振り返るとともに、現場の業務スタイルや期待値を正確に理解し、ニーズに応えるための工夫やアプローチとして行った、利用者にプロダクトを使ってもらうためのトライアル環境の導入や、利用者が気軽に課題や要望を共有できるコミュニティの作成といったプロセス面での学びについて共有します。

またプロダクト面では、各部署から多様な要望が寄せられ、以下のような新たな現場ニーズが明らかになりました:
●Jupyter手順書の作成が想定以上に難しく感じられる等、広く活用してもらうには、使いやすさへの配慮が不足していたことが明らかになった
●CLI操作を適用できない機器に対してGUI操作による自動化が求められた
●ベンダーごとに異なるコマンド体系や仕様を理解する必要があり、担当者ごとに知識に差が出る状況を踏まえ、ベンダーごとの違いを吸収しながらも共通の操作手順で設定を行える仕組みが求められた

これらに応えるため、自動化に不慣れなネットワークエンジニアでも活用できる自動化プラットフォームを目指すというコンセプトを踏まえた上で、従来の設計思想にとらわれず、「現場に合った形で自動化を届ける」こととしました。

例えば、プログラミングスキルが低いネットワークエンジニアでもJupyter手順書の作成をできるよう生成AIを組み込んだ事例や、単なるGUI操作の自動化にとどまらず、CLI同様に実行結果を確認しながら操作できることを重視し、CLINEとPlaywrightを活用して自然言語によるGUI操作の自動化に挑戦し、現場での運用可能性について検証を進めた事例を発表します。

ネットワーク作業自動化を始めた“次のステップ”として、ツールを作ったあとに直面する展開・浸透の難しさや、文化の違いにどう対応したかをプロセス・プロダクトの両視点から共有します。我々と同じように、現場と向き合いながら全社展開を目指す方々と議論できれば幸いです。

※前回発表:ネットワーク作業自動化の道: 信頼性と効率性の両立(https://www.janog.gr.jp/meeting/janog55/nwauto/)

議論ポイント

●新しい仕組みに対する現場の抵抗感を下げるために、生成AIは心理的なハードルを下げる手段として有効なのか?
●プラットフォーム横展開時、どこまで「共通化」すべきで、どこまで「個別最適」を許容するべきか?
●「正しい押し付け」の実践:現場が納得する形でツールを受け入れてもらうには、どのようなコミュニケーションが必要か?
●利用者として、どのようなコミュニティがあれば嬉しいか?

場所

多目的ホール/1F

日時

Day1 2025年7月30日(水) 14:45~15:45(1時間)

発表者

藪原
Osamu YABUHARA
KDDI株式会社
長野 知幸
Tomoyuki NAGANO
KDDI株式会社
渡辺 みどり
Midori WATANABE
KDDI株式会社

公開資料

その他

本プログラムはストリーミング配信予定です。

アーカイブ配信

本会議終了後、順次配信予定です。