システム開発の常識が変わる!? ~MCP で SSoT x LLM を実現したら起きること~

概要

我々はSSoT (Single Source of Truth) によって、業務を効率・効果的にする取り組みを行っている。
現在は、データセンタやオフィス内の機器の管理、そしてネットワークの運用、更にはアプリケーションのデプロイ、運用などといった幅広い領域の情報を扱っているが、その領域に制限はない。
むしろ従来、組織の部署として区切られていた領域を超え、複数の業務領域の情報を集約・活用することで、従来では対処できなかったビジネス課題や運用ニーズに対処できるようになると考える。
しかし SSoT が実現できても、様々な運用ニーズに即応するには課題がある。

まず経験則として、ビジネスやシステムが高度化・複雑化することで、それに応じ運用も高度化・複雑化すると考える。
そのため、ある時点では予測しなかった運用ニーズや課題が、システム運用後に顕在化するケースが発生しうる。
こうした事象に対し多くのシステムでは、新たな運用ニーズや課題に対処できる機能を、システムのアドオンとして提供できる仕組みを備えている。
(NetBox における “NetBox Plugin” や、ServiceNow における “Scripted REST API”、そしてPagodaにおけるカスタムビューがこれに該当する)

だがこうした手法は、新たなニーズや課題への「対処」は出来ても、「即応」するのは難しい。
なぜなら、こうした機能の開発には「(1) ニーズや課題に対処するための要件を検討 (2) 要件を満たす機能を開発 (3) 機能をテストしリリース (4) ユーザからのフィードバックを元に改良」というサイクルを回すのが一般的だが、最初の1回目のサイクルをまわすのに、少なからぬ時間(早くても数週間、大きい機能では数ヶ月以上)を要するためである。
また、開発した機能やサービスを正常動作させ続けるための維持コストも生じる。機能やサービスによってもたらす利益が、維持コストを下回れば、当該機能は「負債(利益より大きな損失を生じさせる原因)」となってしまう。

これら2点(即応性、維持コストの低減)の課題への対処策として、LLM (Large Language Model) に注目した。

我々の運用の現場においては、様々なコンテキストの多くの情報が、SSoT を実現する情報管理システム Pagodaに集約されている。
Pagoda は特定の用途に特化した情報管理システムではなく、様々な課題や運用ニーズに対応できるようにするため、全ての情報を正規化した形式で保存する。
そのため Pagoda を利用するユーザは、ある運用ニーズに応じてシステムの中から関連する情報を探索、そこから必要な情報を精査、そして結果を取得(または更新)する。という作業を行う。
一方で LLM は、あるクエリに対し、そのコンテキストに応じて学習データの中から関連する要素を精査・抽出し、クエリに対して最適な形式に変換した結果を生成する。というプロセスを経る。

このように SSoT システムから必要な情報を取得(更新)する操作は、LLM モデルにおける生成プロセスと類似しており、同技術と親和的であると考える。
また LLM をシステム運用に応用した具体的な事例についてこれまでの JANOG でも発表されており、こうした技術によるシステム運用は一般化しつつあると考える。

我々はこれによって、新たな運用ニーズや課題が生じてから対処までの時間を、従来の「数週間〜数ヶ月」から「数十秒〜数分」に短縮し、これと等価な結果を実現するシステムのソースコードの文量を、従来の 100 分の 1 以下にすることを目指す。

LLM と連携する技術について、先の JANOG55 における [マルチエージェントによる NW 自動障害検出の発表「生成AIによるNetwork Automation ~LLMエージェントはネットワークオペレータになれるのか~」では、サードパーティシステムのコンテキストを LLM に注入する手法として RAG を用いていた。
しかしその後 2024年11月に Anthropic 社から、MCP (Model Context Protocol)という技術が登場し注目を集めている。
MCP は従来の RAG とエージェント化を LLM 非依存に実現できる仕組みとして知られ、現在までに 13,000 を超える MCP Server (MCP Client を介して LLM とサードパーティシステムとを連携させる仕組み) が公開されている
その中には、公開から僅かひと月で 9,000 を超える GitHub Star を獲得する MCP Server (例: playwright-mcpもあり、その注目の高さが伺える。

本セッションでは MCP を用いて、Pagoda (SSoT) に蓄積した情報の探索・抽出・精査を LLM に実行させ「どの程度のことが実現できるか」といった実効性と、「どの程度のコード行数で実行できたか」といったコストについて示した上で、
SSoT と LLM によるシステム運用の有用性について、またそこに潜む新たな課題について議論をしたい。

議論ポイント

SSoT について、どういった情報が SSoT に集約することで、どういった業務効率化の効果をもたらすかについて議論をしたい。
またシステムと LLM との連携について、(先の JANOG55 での発表 [*1] でも議論となったが)LLM がさも確実であるかのように誤情報を回答する(Hallucination と呼ばれる)問題については、MCP においても顕在であり、議論の的の一つとなると考える。

場所

国際会議場/3F

日時

Day3 2025年8月1日(金) 14:15~15:00(45分)

発表者

大山 裕泰
OHYAMA Hiroyasu
合同会社DMM.com

公開資料

その他

本プログラムはストリーミング配信予定です。

アーカイブ配信

本会議終了後、順次配信予定です。