JANOGerのみなさん、こんにちは! JANOG58プログラム委員の近森です。
今回はDay2(2026年7月16日)に本会議場2F-Bで行われるプログラム「バックボーンをスケールアウトで“運用する”段階へ ~ DDBR商用化までの歩みと、実運用に渡して見えた論点 ~」にご登壇いただくKDDI株式会社の熊木 健二さん、石嶋 紘大さんとのミーティング内容を元に、プログラムをご紹介いたします。

左上:近森、右上:石嶋さん、下:熊木さん
これまでのDDBR関連のご発表とのつながりを教えてください
熊木さん
JANOG52のときは、インターネットのピアリング用ルーターとしてDDBR (Distributed Disaggregated Backbone Router) を使用する取り組みをご紹介しました。そのときはスタンドアローン型、つまり単体で動作する構成だったんです。
その後、JANOG56ではDDBRを用いたスケールアウトネットワーク構想と商用導入計画をご紹介しました。
今回の発表はスケールアウトネットワーク構築が完了し、複数の機器を組み合わせて1台のルーターのように動作させる、クラスタ型ルーターを商用環境で運用するフェーズの話になります。
これまでの取り組みを振り返りながら、「本当に1台のルーターとして動作するのか」「実際に運用してどうだったのか」をお話ししたいと思っています。
今回、石嶋さんが登壇されることになったきっかけを教えてください
石嶋さん
私は今回のDDBR商用導入を担当したメンバーの一人なんです。
実際に検証して、導入して、運用部門へ引き渡すところまで関わってきたので、その現場の声をお伝えしたいと思っています。
DDBRと聞くと「本当に動くの?」と思われる方もいると思うんですが、実際に検証した立場として、「ちゃんと動きますよ」ということを伝えられたらと思っています。
運用フェーズに入って苦労したことはありましたか?
石嶋さん
意外に思われるかもしれませんが、運用に入ってからこれまで大きなトラブルはありません。
ログ発生状況やトラヒック動向は想定通りで問題なく、監視センターからも特別な対応が必要だという話は出ていませんし、普通のルーターとして動いています。
むしろ苦労したのは運用に入る前ですね。
クラスタ型ルーターは今までのシャーシ型ルーターとはアーキテクチャが違うので、交換手順書や運用フローを一から整理し直す必要がありました。
シャーシ型ルーターなどの既存アーキテクチャであれば新しい設備であっても今までのノウハウや知見など、流用できる部分も多いんですが、新しいアーキテクチャなのでそこは苦労しましたね。
導入して感じたメリットを教えてください
熊木さん
一番大きいのはスケールアウトできることですね。
従来のシャーシ型ルーターはスロット数に限界があるため、容量が増えるたびに大規模なリプレースを考えなければいけません。
でもDDBRは必要に応じて装置を追加していけるので、拡張の自由度が高いんです。
これにより、マイグレーションにかかっていた時間は圧倒的に削減できるのではないかと思います。
それに、オープン化によって特定ベンダーに縛られない構成を取れるので、結果としてコスト削減にもつながります。
石嶋さん
商用導入を担当した立場からすると、品質レベルは高いと感じていて、新しい仕組みではあるんですが、問題なく運用開始できました。
また、設置場所の自由度が高いのもメリットだと思っています。局舎のスペース事情に合わせて柔軟に配置できるのは今までのアーキテクチャにはないメリットだと思います。
今後の展望を教えてください
熊木さん
昨年のプレスリリースと同時に行った記者会見でも説明しましたが、KDDIの中ではネットワーク全体のオープン化に向けた計画があるんです。
最初はピアリングルーターから始めて、今回バックボーンコアルーターをDDBRで商用化しました。
その先にはエッジルーターやアグリゲーションルーター、それからAIデータセンターのネットワークなど、まだまだ広げていきたい領域があります。
キャリアネットワークは階層構造になっているので、まずは機能が比較的シンプルなところから始めているんですね。
逆にお客さまに近いレイヤーになると求められる機能も増えてきます。
なので順番としては上位レイヤーから取り組んでおり、今後はさらに下位レイヤーのオープン化に取り組んでいく予定です。
先駆的に取り組まれていますが、他社からの問い合わせも多いのでしょうか?
熊木さん
実は海外では、この手のオープン化やディスアグリゲーションはかなり進んでいて、一部の大手キャリアは既に商用化しています。
我々もそういった海外キャリアと情報交換しながら進めてきました。
一方で国内では、まだこれからという事業者も多いと思っています。
なのでJANOG52で発表させてもらったのも、「こういう選択肢がありますよ」ということを広く知ってもらいたかったからなんです。
実際、国内の通信事業者さんからもお問い合わせをいただいていますし、皆さん関心は持たれていると感じています。
ノウハウを共有するコミュニティや技術者同士のつながりはあるのでしょうか?
熊木さん
ありますよ。私自身、Telecom Infra Project(TIP)の活動に長く携わっていて、ネットワークのオープン化を推進するコミュニティでは議長も務めています。世界中の通信事業者やベンダーと議論しながら、仕様策定や技術の方向性について意見交換をしています。
ただ、運用ノウハウまで含めて共有するコミュニティは、実はまだ十分ではないんですよね。
そのようなコミュニティがあってもいいんじゃないかという思いもあり、JANOGで話し始めたんです。
参加者や、DDBRの導入を検討している方へメッセージをお願いします
熊木さん
私が一番お伝えしたいのは、「まずは知ってほしい」ということですね。
海外では既に大規模な導入事例がありますし、私自身も長く取り組んできているので、特別な技術という感覚はありません。
一方で、国内ではまだ知られていない部分も多いと感じており、オープン化の事例を増やしていくことが私のミッションだと思って活動しています。
もちろん導入するかしないかは各社の判断となりますが、知らないまま選択肢から外してしまうのはもったいないと思っています。
まず知って、比較して、その上で判断していただければと思います。
石嶋さん
私は「DDBRは普通に動きます」ということをお伝えしたいですね。
実は私自身も、このプロジェクトに入った当初は「本当に大丈夫かな」と思っていました。
でも実際に検証して商用導入まで進み、今ではKDDIのネットワークのど真ん中で普通に動いています。
なので、興味をお持ちの方にはぜひ知っていただいて、一緒にネットワークのオープン化を進めていきましょう!
JANOG58で楽しみにしていることは?
熊木さん
今回は、運用フェーズについて会場の皆さんと議論できることを特に楽しみにしています。
運用フェーズで議論した結果を製品にフィードバックするのも私のミッションです。
実際に触ってみて、運用してみて、そこで感じたことをフィードバックしていくのが大事なんです。
JANOGはそういう率直な議論ができる場なので、今から楽しみにしています。
石嶋さん
私はこれまで、聴講者としてJANOGに参加してきましたが、初めて参加したJANOG53の時から「発表する側になりたいな」と思っていました。
なので今回登壇できること自体がすごく楽しみです。
そして、この発表がネットワークのオープン化を広げるきっかけになれば嬉しいです。
プログラム委員より一言
近森
今回お話を伺って印象的だったのは、単にDDBRを商用導入したというだけでなく、その過程で得られた知見や運用ノウハウを積極的に外部へ共有されていることでした。
今回の発表では、設計やアーキテクチャの話だけでなく、実際に運用へ引き渡して見えた課題や工夫、そして今後の展望まで共有いただけるとのことで、同じネットワーク運用者としてとても楽しみにしております。
お二人のお話からは、「まずは知ってほしい」「コミュニティで議論したい」という思いが強く伝わってきました。ネットワークのオープン化に取り組む仲間を増やし、運用ノウハウを共有しながら業界全体を前に進めていく、そんなメッセージが込められたセッションになるのではないでしょうか。
DDBRに興味がある方はもちろん、これから検討してみたい方や、実運用のリアルな話を聞いてみたい方にもぜひ参加いただきたいプログラムです。当日、会場やSlackでどのような議論がされるのか、私自身も楽しみにしています。

