プログラム紹介「DNSチュートリアル」

Day1(2024年1月17日)11:00~12:00に、JANOG53で唯一のチュートリアルプログラムである「DNSチュートリアル」が行われます。ここではそのチュートリアルの意図と魅力について特集したいと思います。

チュートリアルを企画した意図についてはプログラム委員長の、ししおさん・いのうえさんに、チュートリアルの内容、狙いについてはJPRSの森下さん・月東(がっとう)さんにお話を伺います。

左上から時計回りに、ししおさん(プログラム委員長)、はな(企画編成委員長・聞き手)、森下さん(JPRS)、いのうえさん(プログラム委員長)、月東さん(JPRS)

DNSチュートリアルを企画したきっかけ

はな(聞き手):早速ですが、DNSチュートリアルを企画したきっかけを教えてください。

ししお:DNSチュートリアルを企画したきっかけとして、今回のJANOG53が『53』(DNSのポート番号)がありました。きっとDNSのプログラム応募も多くなるのではないかと。あとは、前回のJANOG52のオープンマイクで、森下さんがJANOG『53』で何かをしたいという発言があったので、それもあります(笑)

森下:はい、言ってました(笑)

ししお:一方で、ネットワークエンジニアとしてはルーティングとかに注力していると、DNSを普段意識することは少ない。必然的に、DNSをちゃんと勉強したこともないし、DNSが盛り上がっていると「よく分からないな」と感じることも少なくない。
そんな中、前述の通り、DNSの応募も増えるだろうと感じていたので、本会議前に「DNSチュートリアル」をやろうと決めました。

はな:『53』から着想を得られたんですね。ちなみに、DNSチュートリアルをやろう! と決めたのはいつぐらいだったんでしょうか。

ししお:初回のプログラム委員長MTG(8月?)には決めていましたね。

いのうえ:そうですね。

ししお:思い付きの割には随分前から考えていました(笑)。その分、DNSチュートリアルだけはやりたいね、と委員長同士で相談して決めてましたね。

チュートリアルをしようと思った“想い”

はな:一方で「チュートリアル」は他のプログラムとは異なり、プログラム委員長が企画された特別なプログラムになっています。そもそもの「チュートリアル」をやろうとした意図は何ですか。

ししお:JANOGって敷居が高いっていうのがあると思っています。ただ一方で「敷居を下げたくない」という思いがある。JANOGは日本の優秀な運用者がつどい、3日間みっちりと話せる場ですよね。レベルを下げてしまうともったいない。そこで、イベントの主催者なりがチュートリアルをやるべきだと思っていて、自分が委員長を務めている時はやっていることが多いです。

はな:なるほど。確かに「敷居の高さを感じる」といった声は参加者からよく聞きます。

ししお:敷居を上げたままにしたい。とはいえ、誰も来ないようなプログラムは作りたくない。そのために、先見の明を持っているような人たち(ベテラン)がチュートリアルを積極的にやらないといけないと思っています。それがJANOGでやる意義かと。

チュートリアルの企画意図を語るプログラム委員長
60分の取材枠では足りないくらい、熱い話が止まることはない。
(左から、いのうえさん、ししおさん)

JPRSさんにお願いしたきっかけ

はな:熱い想いを感じました、ありがとうございます(笑)。今回のDNSチュートリアルはJPRSさんに打診されましたが、そちらのきっかけも教えてください。

ししお:「JPRSさんだから」ですね(笑)

一同:(笑)

ししお:実際は、チュートリアルをお願いするような方は他にもいらっしゃる。過去にJANOG本会議で「インターネットチュートリアル」の形で広いテーマで講義をしてくださった方もいます。ただ今回は『53』ということで、DNSに注力したかったというのが1つ。もう1つは、参加者に初心者の方が多いと思うので、今後のためにJPRSさんと接点、関係性を築くきっかけにできれば良いと思いました。

はな:確かに、今後DNSのご相談等でお世話になることも多そうです。

ししお:はい。なのでJPRSさんにお願いするのが一番良いと思いました。

はな:ししおさんの熱いコメントもございましたが、森下さんのお気持ちはいかがですか(笑)。ご準備も大変だったかと思いまして。

森下:ありがたいと思っています(笑)。
実はAPNICでは元々90分枠でチュートリアルをやっていました。APNICでは、必ずしもネットワーク運用者が来る訳ではないのと、何なら技術者以外の方も参加するのが特徴でした。そこで、90分のうち前半は「DNSの役割」「DNSの全体像」を導入として丁寧になぞっています。

森下:そのAPNIC用に作成した90分の資料を、JANOG53用に60分で再構成しました。前半の導入部分を削った感じです。JANOGでは「DNS」という言葉そのものは知っているし、「DNSの役割」も雰囲気で知っている人が多いと思っているので(笑)

はな:確かに、DNSは詳しく知らないけど、「『再帰的問い合わせ』のような単語を聞いたことがある!」という方は多そうです!

DNSチュートリアルの狙い(1) 〜DNSの今を知ること〜

はな:資料の話も出たので、中身の話に入っていきます。チュートリアルの狙いを教えてください。

森下:まず1つとして「JANOGなので、今の世の中で動いていないもの、そのうち動かなくなるものは説明しても仕方がない」と思っています。例えば、従来のDNSにおける名前解決の動作とか。

はな:はい、利用者が問い合わせた内容をそのまま使ってルートから順に聞いていくような、一連の流れですね。

森下:はい、これはやめまして、今回はいきなり「QNAME minimisation1」を説明します。実際に今の世の中の半分以上はこれになっています。従来の形から今の形になった経緯は説明しますが「DNSの今の姿」としては「QNAME minimisation」を取り上げるべきかと。こういうところが他のチュートリアルとは違う点かな、と思います。

はな:確かに「DNSの今」を知りたい参加者にとっては重要な視点です。

森下:もちろん90分枠で時間に余裕があれば、どちらも取り上げるのですが、今回は60分ということで入りませんでした(笑)。他にも「DoH2」など暗号化技術も時間の都合上割愛しています。

チュートリアルのコンセプトについて語る森下さん。実際の内容はチュートリアルに参加して、ご自身で見ていただきたい。

DNSチュートリアルの狙い(2) 〜JANOG参加者にとってのDNS〜

はな:もう1つの狙いは何でしょうか。

森下:まずチュートリアルの参加者像として ネットワークオペレーターだけれどDNSの専門家ではない 方がメイン層だと思っています。そしてその皆さんに何らかのトラブルが発生し、DNSも見ないといけないとなった時に「皆さんが困ること・はまってしまうことって何だろう」という視点に立ちました。

森下:その中でコンセプトとしては「トラブルシューティング時に意外とはまってしまいそうで、世の中で『え?』と思われるようなものを、2つだけでもとりあげよう」というものです。

はな:トラシュー中には余裕がなく、はまってしまうとなかなか抜け出せないですもんね……。

森下:当日は、運用の現場で役に立つ2つとして

  1. 役割が異なる2種類の問い合わせ
  2. 意味が異なる2種類の不在応答

について解説予定です。これが意外と世の中的に理解されていない2大ポイントになっています。実際に2を認識できていなかった結果、障害の原因を見つけられなかったという事例も過去にインターネット業界でありましたし、オペレーターとしては最低限知っておかないといけない。このように「知っておかないといけない、かつ、役に立つもの」は何だろうということで、この2点を取り上げました。

はな:実際に資料を拝見して「よく見るとこんな違いが!?」と新発見でした。内容は当日のお楽しみに!

DNSチュートリアルのWebページと月東さん。0から培った知識と運用から得られた知見は、チュートリアル参加者にとって必見だろう。

おわりに:チュートリアルに参加される皆さんへ

はな:ししおさん、森下さん、ありがとうございました。最後に、チュートリアルに参加してくださる皆さんへのメッセージを月東さん、森下さんと、いのうえさんにお伺いしたいと思います。

月東:自分は入社3年目ですが、入社して初めてDNSの勉強を始めました。最初は全くわからなかったのですが、現場などで「dig コマンドを叩くときはどこでやるんだろう?」のように経験を積んで来ました。そういった現場目線で「障害時はこういったところに着眼するとスムーズ」などを当日織り交ぜて行ければ良いなと思っています。

月東:また実は自分はJANOG初参加です。ネットワークの勉強もちょこっとやっていて、本会議ではネットワーク運用の自動化等のやり方にも関心がありますし、さらには懇親会も楽しみにしています(笑)。会場ではいろんな方とコミュニケーションをとって、つながりを増やしていけるといいなと思っています。よろしくお願いします。

はな:チュートリアル参加者の皆さんと近い立場で経験則を話して頂けるのは貴重ですね。

ししお:しかも森下さんというベテランとの組み合わせもまた良いですね。

はな:森下さんお願いします。

森下:本チュートリアルは「DNSを知らないけど、運用で触らないといけない・トラブルシューティングをしないといけない」ような方にぜひ聞いて欲しいと思っています。また、これに限らずJANOG53は全体としてバランスが良くいろんな方面をカバーされた構成になっています。まずはJANOG53に、できるだけ多くの方に来て頂ければと思います!

はな:ありがとうございます! 締めとして、プログラム委員長の、いのうえさんメッセージをお願いします!

いのうえ:ほぼ、ししおさんが冒頭に話してしまったので、言うことがないですね(笑)

一同:(笑)

いのうえ:今回のJANOG53では、若手の方・学生の方にもぜひ来て頂きたいと思っており、そんな折に皆さんと一緒に学べる機会を作りたいという思いで、本企画を提案させて頂きました。自分は3年目の若手として勉強しているところですが、月東さんのように同じ目線の方から学べるのは非常にありがたいことだと思っています。多くの方に楽しいチュートリアルになると思うので、ぜひ聞いて頂きたいと思います!

はな:みなさま、ありがとうございました。「DNSチュートリアル」は1日目(1/17)11時より行われます。開会宣言より開始が早いので注意してください! 会場にてお待ちしています!

(聞き手/企画編成委員長 はな)

脚注

  1. QNAME minimisation:フルリゾルバーの名前解決アルゴリズムを変更し、ルートサーバーやTLDの権威DNSサーバーには名前解決に必要な最低限の情報のみを問い合わせるようにする技術のこと(インターネット白書2019より) ↩︎
  2. DoH(DNS over HTTPS):HTTPS (Hypertext Transfer Protocol Secure)を用いてDNSの通信を行う技術のこと(JPNICインターネット用語1分解説より) ↩︎
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