JANOG54企画編成委員の浅見です。
Day3 15:15~16:30にJPRSホール(コンベンションホールA)で開催されるプログラム、「NTT法改正 -ネットの将来を描くJANOGerと共に挑戦する」について紹介します。今回は登壇者のクロサカ タツヤさん(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科)、立石 聡明さん(一般社団法人日本インターネットプロバイダー協会)、登 大遊さん(東日本電信電話株式会社 特殊局 / 独立行政法人 情報処理推進機構)、福智 道一さん(BBIX株式会社)にお話を伺いました。
今回のプログラムを応募したきっかけを教えてください。
福智さん:去年の7月くらいから、世の中でNTT法の話が盛り上がってきました。それに対し、NTT以外の事業者181社が懸念を出したことがきっかけです。現状、NTTの設備の上で様々なサービスが展開されており、通信業界はそれに依存しています。NTT法改正は、インターネットのみならず、ISP全体への影響力が大きく、通信業界の未来を決める話に繋がります。つまり、JANOGに参加している方々をはじめとした、インターネットの礎を作っていく人たちへの影響が大きいのです。そのため、まずはこのNTT法改正の話を、自分ごととして捉えてほしいと考えています。今回は若者代表として登さんにも登壇していただき、JANOGにふさわしいお話をしたいと考えています。
NTT法がどのようなものか、簡単に教えてください。
クロサカさん:NTT法とは、NTTを規律するための法律です。元々NTTという会社は電電公社という国の機関でしたが、通信の民営化が図られた際に民間企業となりました。NTTは電電公社由来という特別な会社でしたので、市場の中で一民間企業として仕事ができるよう、他の企業と公平な状態になるように、NTTの設備や建物の使い方を規定したものがNTT法です。NTT法で定めた使い方以外のことに使うのはアンフェアになるので、他のことには使わないでね、ということを定めています。逆に言うと、それしか定めていないとも言えます。
通信業界でどのように競争するのかについては、電気通信事業法という別の法律があります。NTT法、電気通信事業法の2つが通信産業という車の両輪となり、通信産業の競争政策のあり方を定めてきました。こういった中で、もしNTT法が廃止された場合、果たしてこの車はこのまま走れるのだろうか?というところがみんなの心配事になっているわけです。
プログラムの内容や議論のポイントを教えてください。
福智さん:NTT法の話については、JANOG53のBoFやOOLオープンフォーラム、JAIPAの集いなどで話してきました。今回は、クロサカさん、立石さん、登さんのそれぞれの立場から、将来を支える技術者にとって、NTT法の改正がどのような影響を及ぼすのか語ります。
まずはNTT法のあり方やガバナンスの視点で、クロサカさんに話してもらいます。今までは、NTT法の位置付けなどのベースとなる部分を話してきましたが、今回は、一般目線でなかなか見えないところ、NTTの人たちにどう見えているのか、といったマインドセットをシステムを交えて話したいと考えています。
立石さんには、JAIPAを代表して、地域のISPやインフラの重要性、安全保障の観点で話をしてもらいます。
立石さん:その他にも、デジタル・デバイドやユニバーサルサービス、総務省の分科会の情報アップデートについても話したいと思います。
福智さん:そうですね。それぞれの立場で、今回のNTT法改正をどう見ているのか、どうあるべきかを話します。特に登さんのパートは議論のメインになるのではないかと思っています。
登さん:私からは、相互接続を外から利用してきた立場としてお話します。NTT法の改正は、直接的には電気通信事業法(参入・退出自由の原則)には影響がなくとも、間接的に影響があり得ます。この問題に関して衆人環視を怠り気を抜くと、ひいては、ファイバ・コロケの開放義務がなくなる懸念があります。現在のNTT法・電気通信事業法では、開放された設備を用いて自分でISPを作ることができます。こういった相互接続を使うメリットは2つあります。1つ目は、自分でISP設備をフルスタックで作れるので、人材育成上の効果があることです。JANOGに参加している業界では人材育成が必要とされていますが、そのフィールドとして相互接続に価値があります。2つ目は、局舎で自分自身の手によって創意工夫を凝らして自ら通信システムやネットワークを構築することで、通信に関するフルスタックの知識を得られることです。局舎は創造性にあふれた場所ですが、NTT法の改正によって、この創造性が失われることへの懸念があります。人材育成に資する、局舎やダークファイバの利用条件が整っている方が、日本の将来のために良いと思っており、そういったことを議論したいです。
福智さん:登さんのコメントをいただいた上で、他の方はどう思いますか?
クロサカさん:基本的にインフラはじゃぶじゃぶ使えるべきだと思っています。その環境をどのように作るかを議論していきたいですね。
プログラムタイトルにも「ネットの将来を描くJANOGerと共に挑戦する」とありますが、みなさまが考える「ネットの将来」とはどのようなものでしょうか?
登さん:ICT技術全般、クラウド、通信システム、セキュリティ製品やOSも含め、日本人が作れば最強だと思っています。どんな産業でも、日本人が作れば世界最高峰になります。既に世にでているものを、さらに高品質に作ることができるのが日本の強さだと思います。ですので、コンピュータ製品も優れたものを作ることができるはずです。そのためには、コンピュータと通信の両方を知っている人を増やす必要があります。NTTの設備を活用して、コンピュータをやっている人も通信をやっている人も一緒に研究開発できるようにすれば、世界一のものが作れると信じています。
<ここで福智さんがお時間のため退席されました。>
JANOG54の参加者へ向けて一言ずつお願いします。
立石さん:NTT法はマスコミでも取り上げられていますが、正しい内容が伝わっているのかわかりづらく、あまり知られていないように思います。この機会に、NTT法がどのようなものか知ってほしいです。単に廃止・改正するという話だけでなく、今後の日本の通信産業が変わっていく中で、重要な問題です。JANOG参加者のみなさんは通信産業を担っているわけですので、もっと関心をもっていただければと思います。
登さん:フルスタックの知識を手にいれることは大変有利になります。JANOGの参加者はそれに近い存在が多いと思います。ダークファイバや局舎などのブラックボックスな部分を理解した上で最大限活用することで、技術面でのフルスタックの知識が手に入ると考えています。そして、法律や社会制度を、社会問題の背景知識を含めて一通り勉強すると、技術以外のフルスタックも増えると思います。ぜひフルスタック仲間を増やしたいです。アメリカなどの先進国で成功しているICT事業者はそんな人材がたくさんいるのだと思います。人材の集積場所としてJANOGがますます発展すれば素晴らしいことだと思います。
クロサカさん:インターネットは、全ての人にとって空気のような存在だと思います。最近、インターネットという言葉を使わなくなったことからも、とりたてて意識することではなくなってきていることが分かります。みんなにとっての空気なので、良い空気・美味しい空気が欲しくなっているはずです。では、その美味しい空気とは何か、を考えるのがJANOGerのみなさんだと思います。NTT法・電気通信事業法のあり方によって、私たちが美味しい空気を吸い続けるためにどうすべきかを考えるというのが、一つの視点です。JANOG全体を通じて、美味しい空気とは何かという議論をみなさんと一緒にしていきたいです。
通信業界の将来に大きく関わる内容で、注目度も高いプログラムだと思います。当日が楽しみですね!
インタビューにご協力いただきありがとうございました!